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新任営業マネージャーの育て方——部長が知るべき3フェーズ育成論

新任マネージャーの育成は、ティーチング→コーチング→昇格判定の3フェーズで考える。部長として何をいつ介入すべきか、判断の枠組みを解説します。

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渡邊悠介


新任マネージャーの育成を「コーチング」だけで語る落とし穴

新任マネージャーの育成を支援する立場になると、「コーチングで引き出そう」という発想に引っ張られすぎることがある。

しかし、任用直後の新任マネージャーに必要なのは、コーチングより先に「教えること」だ。

マネージャーという役割の全体像、権限の範囲、評価の仕組み、チームに対する責任——これらが腹落ちしていない段階でコーチング的な問いかけをしても、相手は考えるための地図を持っていない。「あなたはどうしたいですか?」と聞かれても、答えようがない。

部長として新任マネージャーを育てるとき、育成のフェーズを3つに分けて考えると介入のタイミングと関わり方が明確になる。

  1. 任用直後(ティーチング期) — まず地図を渡す
  2. 通常期(コーチング期) — 観察してギャップを埋める
  3. 昇格前(コーチング期) — 擬似委譲で見極める

組織コーチングとは何かを理解した上で読むと、ティーチングとコーチングの使い分けの意味がより明確になる。

フェーズ1: 任用直後——まずティーチングで地図を渡す

マネージャーになった人間が最初に戸惑うのは、何を知らないかを知らないことだ。

プレイヤーとして優秀だった人ほど、「仕事の進め方はわかっている」という自負がある。しかしマネージャーの仕事は、プレイヤーの延長線上にはない。評価の仕組み、権限の範囲、人事的な判断の取り扱い、上位方針の翻訳——これらは教わらなければ動けない。

この時期に教えるべき4つのこと

①役割の定義 自分の成果ではなく、チームの成果を最大化することが仕事だと理解させる。具体的には、「あなたの評価基準は何か」を言語化して渡す。

②権限の範囲 何を自分で決めていいか、何を上に上げるべきかを明示する。権限が曖昧なまま放置すると、新任マネージャーは「判断できない」か「越権する」かのどちらかに陥る。

③評価の仕組み 部下をどう評価するか、自分がどう評価されるかの両方を教える。評価プロセスを知らないまま部下と1on1をしても、何のためにやっているか本人に伝わらない。

④チームの現状把握の方法 数字だけでなく、誰がどんな状態にあるかを把握する習慣の付け方を教える。初期は「何を見ればいいか」すらわからないため、観察のフォーカスポイントを具体的に示す。

この段階では、コーチング的な問いかけより「こうすればいい」という明確な指示の方が機能することが多い。ティーチング中心で地図を渡してから、コーチングに移行する。

フェーズ2: 通常期——3軸でギャップを観察してコーチングで補う

基礎が入ったら、次は「自分で走れる状態」に持っていく期間だ。部長としての役割は、細かく指示することではなく、本人が気づいていないギャップを発見させる関わり方に変わる。

この時期にコーチングを使うのは、答えを出すためではなく、ギャップへの気づきを促すためだ。

観察する3つの軸

①管理(数字・行動・プロセスの把握) チームの数字を正確に把握しているか。問題の兆候に気づいているか。部下の行動量と行動の質を両方見えているか。

管理が甘い新任マネージャーは、「なんとなくうまくいってる気がする」と言う。問題が顕在化してから初めて把握できる状態では、手を打つのが遅すぎる。

②チームビルディング(関係性・雰囲気・協力体制) チームの雰囲気を把握しているか。部下同士の関係に目が届いているか。心理的安全性が確保されているか。

営業チームの心理的安全性でも触れているが、マネージャーが気づいていないチームの不満や軋轢は、離職や成果低下の前兆であることが多い。

③育成(部下の成長への関与度) 部下の課題を正確に把握しているか。育てようとする意図を持って関わっているか。部下の成長速度に納得感があるか。

「部下が育たない」と言うマネージャーに限って、育成のための時間を取れていない、もしくは取り方を知らないことが多い。

コーチングで使う問いかけの例

  • 「今チームで一番心配しているメンバーは誰?その理由は?」
  • 「先月と比べてチームの雰囲気はどう変わった?」
  • 「部下の○○さんが伸び悩んでいるとしたら、何が原因だと思う?」

答えを引き出すのではなく、観察の解像度を上げることが目的だ。部長がすでに答えを持っている場合でも、本人に言語化させることで、「気づき」として定着する。

プレイングマネージャーの限界とコーチング型マネジメントへの転換も参照すると、通常期に多い「自分でやった方が早い」問題への対処が整理される。

フェーズ3: 昇格前——擬似委譲で「なったらできる状態か」を見極める

昇格検討に入ったら、コーチングのアプローチを維持しながら、擬似的に上のポジションに立たせる場面を意図的に作る。

「部長になったらできるか」は、部長になってみないとわからない——そう言われがちだが、任せ方次第でかなりの精度で見極められる。

擬似委譲の設計

  • 特定のプロジェクトや案件で、部長相当の判断をさせる
  • 他のマネージャーとの調整役を任せる
  • 部門横断の場で提案・意思決定をさせる
  • 採用面接や評価会議への参画機会を与える

この段階でのコーチングは、決断後の振り返りに使う。「あの場面でなぜそう判断したか」「別の選択肢はあったか」「チームへの影響をどう読んだか」を問うことで、思考の深さと視座の高さを確認する。

昇格可否の4軸

①業績・査定の質 チームとして数字を出しているか。評価の根拠を説明できるか。査定において感情的・属人的な判断に偏っていないか。

②人マネジメントの実績 部下の成長を支援できているか。問題が起きたとき適切に対処できているか。チームの離職・モチベーション状態が健全か。

③コンプライアンスの感覚 法的・倫理的なリスクに敏感か。判断の際にコンプライアンスの視点を自然に持てているか。グレーゾーンで正しい判断ができるか。

④戦略・戦術の思考 上位方針を自分の言葉で翻訳できるか。チームに合った戦術を考えられるか。強みを活かす配置・役割設計ができているか。

全軸で高得点が求められるわけではない。複数軸で高得点なら昇格させる、一軸だけ突出しているなら条件付き昇格とするなど、会社の文脈に応じた判断が必要だ。しかしこの4軸を使わずに感覚だけで昇格を判断すると、何が足りなかったかの振り返りが後でできなくなる。

まとめ——部長の仕事は「育てること」そのものを設計すること

新任マネージャーの育成でよくある失敗は、フェーズを無視して同じ関わり方を続けることだ。

  • 任用直後から「あなたはどう思う?」と問い続ける(コーチングが機能しない時期のコーチング)
  • 通常期に入っても細かく指示し続ける(ティーチングからの脱却ができない)
  • 昇格前に何もせずいきなり登用する(擬似委譲なしの昇格)

育成を設計するとは、何をいつ、どんな方法で介入するかを意図的に決めることだ。コーチングは強力なツールだが、それが有効になる前提条件がある。ティーチングで地図を渡し、観察でギャップを把握し、擬似委譲で見極める——この順序を守ることが、部長として新任マネージャーを育てる上での土台になる。

1on1ミーティングの進め方権限委譲の正しいやり方も合わせて参照すると、各フェーズの具体的な実践方法が整理できる。

参考文献

  • リクルートマネジメントソリューションズ(2024)「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」https://www.recruit-ms.co.jp/
  • 厚生労働省(2023)「令和5年版 労働経済の分析」管理職の育成・登用に関する企業行動の分析 https://www.mhlw.go.jp/

よくある質問

Q新任マネージャーをいつコーチングに切り替えればいいですか?
役割・評価・権限の基本が理解できた段階(目安は着任後1〜3ヶ月)から、コーチングの比重を増やし始めます。それ以前に答えを出さない関わり方をすると、単なる放置になります。
Q新任マネージャーが『自分でやった方が早い』を繰り返すとき、どう介入すべきですか?
まず『なぜ任せられないか』の背景を聴きます。自信のなさ、部下への不信、評価プレッシャーなど原因によって打ち手が異なります。コーチング的な問いかけで本人に原因を言語化させてから、必要に応じて考え方を整理します。
Q昇格前の見極めで最も重視すべき軸はどれですか?
唯一の正解はありませんが、実務では『人マネジメント』が最も目立ちにくく、かつ昇格後に最も問題が顕在化しやすい軸です。部下の状態・チームの雰囲気を定期的に観察するとよいでしょう。
Qコーチングと1on1は何が違いますか?
1on1は場(週次面談など)であり、コーチングはその場で使うアプローチの一つです。1on1の中でティーチングも行いますし、コーチング的な対話も行います。場と手法を混同しないことが大切です。
渡邊悠介

渡邊悠介

代表取締役 / 株式会社Hibito

株式会社Hibito代表取締役。営業組織コーチング・個人コーチングを通じて、営業パーソンの主体性と成果を最大化する専門家。営業企画×AIによる組織変革とコーチングによる個人の可能性開放を両輪で推進。「全ての人が自分の未来を自分の手で描ける社会」の実現をミッションに掲げる。

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