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コーチングを受ける 営業組織を変革する

目標設定にコーチングを活かす|部下が自走する目標の作り方

コーチングを活かした目標設定の方法を解説。SMARTだけでは不十分な理由、GROWモデルを使った1on1での目標設定、部下が自走する目標の作り方を紹介します。

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渡邊悠介


目標設定にコーチングが必要な理由

コーチングを活かした目標設定は、部下が目標を「自分ごと」として捉え、自ら考えて動く状態を作ります。 トップダウンで数字を割り振るだけでは、部下の内発的な動機は生まれません。目標に対する納得感——これが、達成に向かう行動の質と持続力を決定的に左右します。

多くの営業組織で、目標設定は「期初に数字を伝える儀式」になっています。経営から降りてきた売上目標をチーム人数で割り、個人の数値目標として配布する。部下は「わかりました」と言いますが、心の中では「また上から降ってきた数字か」と感じている。この状態で目標を達成しようと主体的に動く人は稀です。

コーチングとは、問いかけを通じて相手自身の中にある答えを引き出すコミュニケーション手法です。目標設定にこのアプローチを取り入れると、「この目標は自分で考えて決めたものだ」という当事者意識が生まれます。人は自分で決めたことには責任を持ちます。押しつけられた目標ではなく、自分で選んだ挑戦に対してこそ、本気で向き合えるのです。

目標設定における上司の役割は、数字を伝えて終わりではありません。対話を通じて部下の意志を引き出し、組織の方向性と個人の動機をつなぐ——これがコーチング型の目標設定です。

SMARTだけでは不十分な理由

目標設定のフレームワークとして最も知られているのがSMARTです。Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限がある)。この5つの基準を満たせば「良い目標」になる、と多くのビジネス書が説いています。

しかし、SMARTには決定的な限界があります。SMARTは目標の「形式」を整えるフレームワークであり、目標に対する「意味」や「動機」を扱わないのです。

「新規顧客を月5件獲得する」——これはSMARTの基準を完全に満たしています。具体的で、測定でき、達成可能で、事業に関連し、期限もある。しかし、この目標を渡された部下が「なぜ5件なのか」「なぜ新規なのか」「自分にとってこの目標を達成する意味は何か」を理解していなければ、それは単なる数字の羅列です。

SMARTが扱わない領域は大きく3つあります。

1. 動機づけ(Why)。 なぜこの目標を達成したいのか。達成した先に何があるのか。SMARTには「なぜ」を問う要素がありません。

2. 当事者意識。 その目標は誰が設定したのか。上司が決めた目標をSMART形式に整えても、「自分の目標」にはなりません。

3. プロセスの柔軟性。 目標達成までの道筋が一本道である必要はありません。しかし、SMART形式で固定してしまうと、状況変化への適応が遅れることがあります。

SMARTは「悪い」フレームワークではありません。目標を言語化し、曖昧さを排除するツールとしては優れています。しかし、SMARTで形式を整える「前」に、コーチング的な対話で動機と意味を掘り下げるプロセスが不可欠です。形式と動機の両方が揃ってはじめて、目標は人を動かす力を持ちます。

GROWモデルを使った目標設定の実践

GROWモデルは、コーチングにおける最も基本的なフレームワークです。Goal(目標)→ Reality(現状)→ Options(選択肢)→ Will(意志・行動計画)の4ステップで構成され、質問を通じて相手自身に考えさせるプロセスを設計します。目標設定の場面では、このGROWモデルが強力なツールになります。

G(Goal)—— 目標を明確にする

最初のステップは、部下自身が「どうなりたいか」を言語化することです。ここでの目標は、組織から与えられた数字ではなく、本人の中にある意志です。

問いかけ例:

  • 「今期、営業として一番実現したいことは何ですか?」
  • 「半年後、どんな状態になっていたら充実した期だったと言えますか?」
  • 「キャリアの視点で、今期はどんな成長をしたいですか?」

ここで重要なのは、最初から数字を出さないことです。「売上いくら」ではなく、「どうありたいか」から始める。数字は後から自然についてきます。

R(Reality)—— 現状を正確に把握する

次に、現状を客観的に整理します。理想と現実のギャップを正確に認識することが、行動計画の質を決めます。

問いかけ例:

  • 「今、その理想に対してどのくらいの地点にいると感じますか?」
  • 「目標達成を妨げている一番大きな障害は何ですか?」
  • 「前期の経験から、自分の強みとして活かせることは何ですか?」

マネージャーが「あなたはここが弱い」と指摘するのではなく、部下自身が現状を言語化するプロセスが重要です。自分で口にした課題は、人から指摘された課題よりもはるかに受け入れやすいものです。

O(Options)—— 選択肢を広げる

ギャップが明確になったら、そのギャップを埋めるための方法を一緒に探ります。マネージャーが正解を与えるのではなく、部下の発想を広げる問いかけをします。

問いかけ例:

  • 「目標を達成するために、どんなアプローチが考えられますか?」
  • 「もし何の制約もなかったら、どんな方法を試したいですか?」
  • 「過去にうまくいった経験を応用するなら、何ができますか?」

このステップでは、質より量を重視します。実現可能性の判断は後回しにして、まずは選択肢を出し切ることが大切です。プレイングマネージャーのコーチング型マネジメントでも触れていますが、マネージャーが「自分だったらこうする」と答えを渡してしまうと、部下の思考が止まります。

W(Will)—— 行動を決める

最後に、具体的な行動計画と実行の意志を確認します。ここで初めて、SMART的な具体性を持たせます。

問いかけ例:

  • 「挙げた選択肢の中で、最初に取り組むのはどれですか?」
  • 「いつまでに、何をしますか?」
  • 「達成度はどうやって測りますか?」
  • 「障害が出たとき、どう対処しますか?」

GROWモデルの最大の利点は、部下自身が「考え、選び、決める」プロセスを踏むことです。同じ目標数値でも、自分で導き出した目標と上から渡された目標では、取り組みの質がまったく異なります。

1on1での目標設定コーチング対話例

GROWモデルを実際の1on1でどう使うか、具体的な対話例を示します。営業チームのマネージャー(M)とメンバー(A)の目標設定面談の一場面です。


M: 「今期の目標を一緒に考えたいんですが、まず聞かせてください。今期、Aさんが営業として一番チャレンジしたいことは何ですか?」

A: 「そうですね……。前期は既存のお客さまの対応が中心だったので、今期は新規開拓に本格的に取り組みたいです。」

M: 「新規開拓に挑戦したいんですね。それはなぜですか?」

A: 「既存対応だけだと、自分のスキルの幅が広がらないなと感じていて。新規の提案から受注までを一人でやり切る経験がしたいんです。」

M: 「なるほど。成長のために新規開拓を選んでいるわけですね。今、新規開拓に関しては、どのくらいの経験がありますか?」

A: 「正直あまりなくて……。先輩に同行したことは何度かあるんですが、自分主導でやったのは2件くらいです。」

M: 「その2件の経験で、手応えを感じた部分はどこでした?」

A: 「ヒアリングのところですかね。お客さまの課題を聞き出すのは得意だと思います。ただ、提案書をまとめるところで時間がかかってしまいました。」

M: 「ヒアリングが強みで、提案書の作成がボトルネック。その認識で合っていますか?」

A: 「はい、そうです。」

M: 「では、新規開拓を進めるために、どんな方法が考えられますか?自由に挙げてみてください。」

A: 「まず、提案書のテンプレートを作っておくことですかね。あと、ターゲットリストを先に整理して計画的にアプローチする。それから、提案書を出す前に先輩にレビューしてもらう、とか。」

M: 「3つ出ましたね。他にはありませんか?制約なしで考えるとどうですか?」

A: 「うーん、あとは成功事例のある先輩の商談に改めて同行させてもらうとか。新規開拓のやり方を改めて体系的に学ぶ時間を取るとか。」

M: 「良いですね。では、これらの中で最初に着手するのはどれですか?」

A: 「ターゲットリストの整理と提案書テンプレートの作成を、今月中にやります。」

M: 「数字としては、新規案件をどのくらい目指しますか?」

A: 「月3件のアポイント、四半期で2件の受注を目指したいです。」

M: 「わかりました。私にサポートできることはありますか?」

A: 「提案書のレビューと、行き詰まったときに相談する時間をもらえると助かります。」

M: 「もちろんです。1on1の中で進捗を一緒に振り返りましょう。」


この対話のポイントは、マネージャーが一度も「あなたの目標は月3件のアポと四半期2件の受注です」と言っていないことです。問いかけを重ねた結果、メンバー自身がその数字に辿り着いています。同じ数字でも、自分で導き出した目標には圧倒的な当事者意識が伴います。

目標設定で避けるべき5つのNG行動

コーチング型の目標設定を台無しにしてしまう、よくある失敗パターンがあります。

NG1: 最初に数字を伝えてしまう

「今期の目標は売上3,000万円です。どう達成するか考えてください」。こう切り出した瞬間、部下の思考は「3,000万円をどう分解するか」に固定されます。自分がどうなりたいか、何に挑戦したいかという内発的な動機を引き出す余地がなくなるのです。数字を伝えるのは対話の後半にしてください。

NG2: 部下の答えを否定する

「それは難しいんじゃないか」「もっと現実的に考えて」。部下がせっかく自分の考えを口にしたのに、即座に否定されれば次から本音を言わなくなります。GROWモデルのOptions(選択肢)のステップでは、まず全ての案を受け止めることが鉄則です。

NG3: 誘導質問をする

「新規開拓を頑張るべきだと思わない?」。これは質問の形をした指示です。部下は「はい」と答えるしかありません。コーチングの問いかけは、答えが開かれている必要があります。「今期、どんな挑戦をしたいですか?」と聞くことで、本人の意志が出てきます。

NG4: 目標設定を一度で完結させようとする

1回の面談で目標を完璧に仕上げようとすると、対話が駆け足になり、部下は十分に考える時間を持てません。初回の対話で方向性を確認し、数日後に具体化するなど、2回に分けることも有効です。

NG5: 設定後に放置する

目標を設定して満足し、次の期末面談まで一切触れない。これが最も多い失敗です。目標は「設定すること」がゴールではなく、「達成に向けて行動し続けること」が目的です。設定後のフォローアップの仕組みがなければ、どれほど良い目標も紙の上の文字に終わります。

目標達成を支えるフォローアップの仕組み

目標を設定した後こそが、コーチングの真価が問われる場面です。設定時にどれだけ良い対話ができても、その後のフォローがなければ目標は形骸化します。

週次の1on1で進捗を対話する

目標設定後のフォローアップの基盤は、1on1ミーティングです。ただし、ここでの「進捗確認」は数字の報告ではありません。行動の振り返りと次の一歩を対話で導き出すプロセスです。

問いかけ例:

  • 「今週、目標に向けて一番手応えがあったことは何ですか?」
  • 「想定通りにいかなかったことはありますか?何が障害になりましたか?」
  • 「来週、特に集中したいことは何ですか?」

数字が遅れているときほど、コーチングの姿勢が重要になります。「なぜ達成できていないのか」と問い詰めるのではなく、「何が障害になっているのか」「どうすればその障害を取り除けるか」を一緒に考える。この姿勢が、困難な局面でも部下が前を向き続ける力を支えます。

月次で目標そのものを振り返る

月に1回は、目標の内容そのものを振り返る時間を設けます。ビジネス環境は常に変化しています。期初に設定した目標が、3ヶ月後も最適とは限りません。

  • 環境変化を踏まえて、目標の方向性は合っているか
  • 達成基準は適切か(高すぎる・低すぎる)
  • 新たに見えてきた課題や機会はないか

目標を柔軟に修正できることも、コーチング型目標管理の強みです。「一度決めた目標は変えてはいけない」という硬直した運用は、変化の激しい営業現場にはそぐいません。

成功体験を可視化する

目標に向けた小さな前進を言語化し、承認することが、行動の持続力を高めます。「先週設定したアクションプランを実行できた」「新規の初回訪問で好感触を得た」——こうした小さな成功体験を1on1の場で拾い上げ、フィードバックします。

人は、自分の成長を実感できるときに最もモチベーションが高まります。目標達成までの長い道のりの中で、マイルストーンごとに達成感を味わえる仕組みを意図的に作ることが、フォローアップの核心です。

まとめ

目標設定にコーチングを取り入れる本質は、目標の「所有者」を変えることにあります。上司が決めた目標を渡すのではなく、対話を通じて部下自身が目標を設計するプロセスを支援する。この転換によって、目標は「やらされるもの」から「自分で選んだ挑戦」に変わります。

SMARTで形式を整える前に、GROWモデルで動機と意味を掘り下げる。設定後は1on1でフォローアップし続ける。この一連のプロセスが、部下の自走力を育て、チーム全体の目標達成率を底上げします。

次の目標設定面談で、数字を伝える前にまず「今期、一番挑戦したいことは何ですか?」と聞いてみてください。その一つの問いかけが、部下の目標との向き合い方を根本から変えるはずです。

よくある質問

Q目標設定にコーチングを使うメリットは何ですか?
最大のメリットは、部下が目標を『やらされるもの』ではなく『自分で決めたもの』として認識できることです。納得感のある目標は行動の質と量を高め、結果として目標達成率が向上します。
QSMART目標だけではなぜ不十分なのですか?
SMARTは目標の形式を整えるフレームワークですが、その目標に対する『なぜ達成したいのか』という動機づけは扱いません。形式が整っていても本人が腹落ちしていなければ、行動は続きません。
QGROWモデルとは何ですか?
Goal(目標)→Reality(現状)→Options(選択肢)→Will(意志・行動計画)の4ステップで対話を進めるコーチングフレームワークです。質問を通じて相手自身に考えさせることで、自律的な目標設定と行動を促します。
Qコーチング型の目標設定に資格は必要ですか?
資格は必要ありません。GROWモデルの基本的な問いかけを覚え、1on1で実践することから始められます。重要なのは型を完璧に使いこなすことではなく、部下の話を聴き、問いかける姿勢を持つことです。
Q目標設定のコーチングはどのくらいの頻度で行うべきですか?
目標設定そのものは期初に1回ですが、設定した目標の振り返りと軌道修正は月1回が目安です。週次の1on1では目標に向けた行動の進捗を対話で確認し、必要に応じてフォローアップします。
渡邊悠介

渡邊悠介

代表取締役 / 株式会社Hibito

株式会社Hibito代表取締役。営業組織コーチング・個人コーチングを通じて、営業パーソンの主体性と成果を最大化する専門家。営業企画×AIによる組織変革とコーチングによる個人の可能性開放を両輪で推進。「全ての人が自分の未来を自分の手で描ける社会」の実現をミッションに掲げる。

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